ECM製剤(肌育注射)
ここ数年よく聞くようになった「肌育」という言葉、「すこやかな肌をはぐくみ、暮らしににうるおいをもたらすこと」として、ユースキン製薬株式会社の登録商標となっているそうです。美容医療に関連して用いられる場合の多くは、「加齢や外的刺激により傷ついた皮膚の細胞を修復して健やかな状態を保つこと」を意味する印象です。
肌育注射は、皮膚の潤い、肌理(きめ)、ハリを改善する目的でECM(External cell matrix)製剤を皮膚に注入する治療です。
細胞外マトリックスとは、コラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸をはじめとする、細胞と細胞の間を満たし、組織を支える物質の総称です。細胞外マトリックスは天井を支える柱のような役割しかないと考えられていましたが、近年、細胞の増殖・分化・形態を維持するための重要な情報を司るシステムを制御していることが判明しつつあります。
年齢を重ね、紫外線などの外的刺激により、皮膚の深部(真皮)がダメージを受け続けると、コラーゲンやエラスチンが断片化して硬くなり、細胞外マトリックスの変化が加速します。このことで皮膚を支える力が弱まり、たるみやシワが生じます。

ECM製剤を注入すると、自身のECMがリモデリング(再構築)されて、線維芽細胞の活動が活性化し、コラーゲン・エラスチンの産生が促進されます。皮膚の中のコラーゲン・エラスチンの密度が高くなり、自然なハリが出る、皮膚が引き締まってリフトアップするなど、皮膚に良い環境を取り戻すブースターの働きをします。
当院では現在ECM製剤として、Jalupro製剤を導入しています。目的に応じて3種類の製剤を使い分けます。Jalupro製剤はヒアルロン酸とアミノ酸およびペプチドが配合されたイタリア製の製品で、CEマーク(※1)を取得しています。

Classicは顔面全体に注入することで皮膚のハリや弾力、保水性が増し、小ジワが改善します。またClassicは、ボツリヌス毒素を混合して使用することをメーカーが許可している製剤です。通常ECM製剤の効果は注入後しばらく経過してから発現しますが、ボツリヌス毒素を混合することで、早期から小ジワや毛穴の改善を実感することができます(※2)
Young Eyeは特に目周りの若返りに適した製剤です。またボツリヌス毒素を注入して眼が開きづらくなったことがある、まだボツリヌス毒素の注入は気が進まない場合にYoung Eyeを前額部に注入し、おでこのシワを改善することもできます。
Super Hydroは皮下組織の支持線維を再構築することで顔面のたるみを改善します。
どの製剤も、1ヶ月毎に3回の注入を行い、効果を判定します。注入後、ヒアルロン酸による効果は数日以内に、アミノ酸による効果は1ヶ月後から6ヶ月間かけて徐々に出現します。 メンテナンスを続けると、効果が長持ちするため、半年から1年で様子を見ながら追加の注入を考えます。
JALUPROは、医薬品医療機器等法(薬機法)の上では未承認医療機器です。日本国内に同等の効果が期待できる承認機器は存在しません。製剤は医師が個人輸入したものです。
(※1)CEマーク:欧州連合(EU)で、安全基準条件を満たした医療機器であることを証明するマークです。製品を皮内注射に用いた場合に安全であると承認されています。
(※2)ボツリヌス毒素を同じ部位に注入する場合は、3〜4カ月期間を空けて使用します。
ECM製剤注入時の注意点
a) 注入に際しては、針を刺す際及び薬剤が皮膚の中に入る際に痛みを感じます。表面麻酔を使用し、適宜保冷剤などで冷やしながら治療を行います。
b) 治療当日より洗顔・メイクが可能ですが、激しい運動、長時間の入浴、サウナ利用、過度の飲酒は、予期せぬ出血や腫れを引き起こすため、お控えいただくようお願いします。
c) 注入は細い針を用いて慎重に行いますが、治療後1、2日は赤み、腫れが出現することがあります。特に目の周りなど皮膚が薄い部分では内出血斑が出現する場合があります。改善するまで1〜2週間かかります。メイクなどで隠していただくことが可能です。
起こりうる合併症
治療後数日から1週間程度、軽度の痛み・赤み・むくみ・かゆみが生じることがあります。
内出血斑が生じた場合は、目立たなくなるまでに1〜2週間かかります。コンシーラーなどで隠すことが可能です。
ECM製剤はヒアルロン酸、アミノ酸、ペプチドを有効成分とする薬剤です。シワの補正や輪郭形成を目的とするヒアルロン酸製剤とは異なり、血管塞栓や皮膚壊死のリスクは低いと言われますが、ゼロとは言い切れません。
何かご心配な症状があれば早めにご連絡ください。